14世紀の危機と海洋帝国の出現

岡本隆司著『世界史序説』から抜き書きしてみました。ウイグルやイラン系の商人と結びついて国際経済の繁栄を誇った元時代のモンゴル政権は、14世紀末にペストの世界的流行で瓦解していきます。世界史の中心はアジア・オリエントからヨーロッパに移り、海洋帝国として英米が隆盛していきます。そういう歴史の流れを見たところで、現代の中国が感染症の危機と戦いながら海洋進出に執心なのは、どこにその論理の源泉を見たらよいのか、いろいろ考えてしまいます。

モンゴル遊牧政権とソグド系ウイグル人商人・イラン系ムスリム商人との経済タイアップ、14世紀の危機、「ポスト・モンゴル」の時代
P.143「モンゴルのユーラシア統合のなかで、かつてないほど、広汎な資料が残った」「岡田英弘はこうした情況を、「世界史の誕生」と呼んだ」
P.144「草原では馬があれば、容易敏速に遠距離を踏破することができた。その意味で、遊牧政権の空間的な広さは、後世の大英帝国のような、いわゆる海洋国家のそれと比すべきものといってもよい」
P.145「そもそも軍事力では、遊牧勢力のほうが圧倒的な優位に立つので、権力を握るのは当然である。それでも人口に勝り、経済力を有するのは、定住社会のほうだった」「遊牧民と定住民はその生態系・慣習の違いから、往々にして互いの有無を補い合わなくてはならない」「平時ほとんどの場合は、交易・交渉を通じて関係をとり結んだ」
P.146「その商業とは具体的にいえばキャラバン「隊商」貿易である」「つとにソグド商人の独壇場であり、国際経済はかれらの牛耳るところだった」「まもなくその本拠だった中央アジアが、トルコ化・イスラーム化すると、遊牧・定住をまたにかけた経済界で活躍したのは、東方のソグド系ウイグル商人と西方のイラン系ムスリム商人となる」
P.147「チンギスによるモンゴル初期の膨張は、純軍事的な征服事業でありながら、それだけの意味にとどまらなかった。いわば国際的な財閥と結びつき、それをとりこんだからである。モンゴルはこれを契機として、いっそうの拡大を果たすことになった」「まずは隣接する西ウイグル国が、モンゴルに荷担した。杉山正明によれば、以後「国際頭脳集団」ウイグル人が「モンゴルと一体化し」、「モンゴルを誘導し、一面では乗っ取ったとさえいえる」ほど、政権運営の中枢を握ることにもなる」「ついで(中略)治下にあったイラン系ムスリムの多くがモンゴルになびいた」「ソグド系ウイグル商人・イスラム系ムスリム商人はこうして、たがいに自らの通商圏を東西に拡大させ、いっそう大きな利潤を得ることができた」
P.152「ペルシア語が当時のユーラシアの国際語であった」
P.153「徴収も、政権に近い大口の企業に、一括して請け負わせる方法が普通」「クビライ政権は農業からの徴税ということは、ほぼ考えなかった」
P.159-160「政治軍事は史料に残りやすく、したがって歴史としては、目につきやすい」「経済文化は直截の記述として史料に残りにくいものの、長期的に推移する情況として俯瞰すれば、その影響はむしろ明らかである」「時に14世紀後半にさしかかっている」「この時ふたたび寒冷化に転じたのである」「それにともなって、天災疫病が世界的な規模で発生、蔓延した。有名なヨーロッパのペスト流行は、その代表例である。いわゆる「14世紀の危機」の到来だった」
P.160「ユーラシアのモンゴル諸政権は、「14世紀の危機」のなか、それぞれ崩壊、瓦解していった。中国では、いわゆる元末明初の大乱が起こっている」「経済もこうしたなか、当然どん底にまで落ち込んだ」「ユーラシア全域の統合は史上、これで永遠に失われた、といっても過言ではない」

イタリア(地中海世界)<スペイン・ポルトガル(大航海時代・インド航路・アメリカ大陸の発見・大西洋三角貿易・アジア貿易)<オランダ(海運力)<イギリス(海洋帝国・海軍国)
P.191-192「ヨーロッパ世界の成立は、(中略)西ローマ帝国を「復興」した800年に、ようやくはじまった。これは世界史の常識だろう」
P.199「そもそも文化というものは、富のあるところにしか存立しえない」
P.211-212「西欧・北欧が優越していたのは、何より豊富な森林資源である。木材は資材と燃料に欠かせない。それは世界の勢力関係すら左右する。たとえば造船である。文明の古い乾燥地域のオリエント・西アジアで、森林は最も早く涸渇した。」
P.221「イギリスとは途方もない後発国にして、小国だった」
P.222「狭小な領地をくまなく巡回して、それぞれに戦争と課税の協力を仰ぐのが、イギリス王権のありようだった。それを制度化するため、君も民も縛る法が出現し、上が下を治め、下が上を制する議会制が胚胎したのである」
P.223「イギリスははじめて国債を発行し、中央銀行を創設した国でもあった」「財政金融のシステムは、そもそも軍事的逼迫からはじまったものである」