人間社会の理(ことわり)の追及

少なくとも大学へ進学した人なら専攻した学問領域には強い思い入れがあると思います。私の場合は、中学生時代にロッキード事件があり、ソルジェニーツィンの『収容所群島』や五味川純平の『戦争と人間』、雑誌『世界』連載の「韓国からの通信」を読みなじんだことがあって、権力の腐敗や横暴、翻弄される市民の精神に関心が高く、政治学に向かったように思います。当時も今までも知識がないこともあり、経済学はお金を追いかける学問に思えて進路先に考えたことはありませんでした。しかし、やはり第一線で活躍する経済学者の考えは違うのだということを、12月15日の朝日新聞のコラム「読み解き経済」の筆者・松井彰彦氏の文章で知りました。同氏は、「人間の科学としての経済学を発展させることで、人間の営みを貫く社会の理(ことわり)を求めたい」と記しています。「人間は物質から成り立っているから、物質の科学たる自然科学は人間の科学である社会科学より根源的なものであるとか、経済学は物理学の後追いをしているだけだという言説も認識不足から出たものである」とも言っています。宇宙や生命を構成する物質に着目すれば、化学が理の基本だと思いますが、人間の短い一生を思えば誰もが幸福に感じる社会の成り立ちをどうするかが最重要課題であり、その解明や処方箋提示に経済学や政治学が大きな役割はあると思います。私が進路を決める前に松井氏の文章に出会っていたらまた違った道を辿っていたかもしれません。