貴志俊彦著『帝国日本のプロパガンダ』を読みながら、台湾をめぐる情勢をどう読み解いて対処していくべきか考えさせられました。今回の米国の要人の訪台について周辺地域に何かプラスがあったかというと、軍事的な緊張を招いた点を考えると、かえってマイナスにしかならなかったと思います。そもそも米国の立場は、大陸側が「台湾は中国の一部である」と主張しているのを認識している、つまりそう言っているのは知っていて国交を結んだわけであり、その態度を続けている分には共存可能です。ところが、中国国内で繰り返し放映されている軍事演習の映像は、文字通り大陸の中国国民向けのプロパガンダそのもので、国際政治に無知な国民の戦争熱を煽ることにしかつながりません。武力による統一が無益なことを知っている党エリートに危ない橋を渡らせることを強いてしまったという見方もできると思います。ロシアによるウクライナ侵略を見ても、仮に台湾へ侵攻したなら台湾への打撃以上に多くの人口を抱える大陸側の方が国際的孤立によって国内に大きな不満がたまり、国のかじ取りが立ち行かなくなってしまうリスクが高いと思います。
本書では、日本統治時代の台湾の歴史についても触れていました。たとえば、理蛮政策の中で起きた霧社事件、皇民化政策の中で始まった台湾人に対する特別志願兵制度と徴兵制の流れと犠牲、アジア太平洋戦争期の台湾に対する空襲の実態は、多くの日本国民が日頃意識することがない歴史だと思います。
翻って日本国内でも台湾情勢に便乗した軍拡熱に冷静に対処すべきですし、軍事侵攻による統治は自滅の道であることを内外に示していく努力が求められています。ヒントは現代にも過去にもたくさんあります。
